はやてと合流したエスティマは廊下を歩きながら口を開く。

「捜査官としてのご意見は?」

「うーん……質問にもちゃんと答えてくれるし、態度は悪くない。でも一概には言えへんなぁ」

 2人並んで歩きながら話す。腕を組み首をかしげ悩むはやてにそれもそうか、とエスティマは思っておく。
そう簡単に答えがでれば苦労はしない。休憩所の自販機の前まで来るとポケットを漁りホットコーヒーを二つ買う。
2人とも、それを手に壁によりかかった。

「ただ」

「ただ?」

「あの子と話してて悪い感じはしないって、思うたわ」

「……それは、捜査官としての勘?」

「せやな」

 ふーー、とホットコーヒーを両手で包みながら湯気を息で飛ばす。
小さく愛らしい唇が窄むのを、エスティマはなんとなく見つめていた。その時エスティマに通信が入った。
直ぐにウィンドウを広げると、見知ったスクライアの人が映し出される。

 2、3挨拶を交しながらやりとりをするのをはやては眺めた。
直ぐにウィンドウは閉ざされたのがエスティマが面倒臭そうに溜息をついたから、それが心配で尋ねずにはいられなかった。

「どないしたん?」

 違う、と相槌をうちながらブラックのコーヒーを口にする。眉間の皺がより深くなった。
カップから口を離すと吐息を落とした。

「クーパーなんて名前、知ってる奴はおろか管理局の名簿にも無いってさ」

 はやては固まった。面倒臭い、とばかりにエスティマはまたコーヒーを口に運ぶ。しかし苦いこのコーヒー。
再起動したはやては僅かな戸惑いを見せた。

「あの子が嘘をついてる?」

 相槌を返しながら言葉を選んだ。

「その可能性も否定できないけど、管理局のIDカードはとっくに更新期限が切れてるのに所持してたし、
 質疑にはなんら違和感無く答えてる。抵抗もしない。所持していたデバイスも性能は悪くないけど中身が少し古いって、
 さっきシャーリーから報告があった」

むぅ、と一つ唸ってからはやてと眼を合わせる。まるで漂流者だ、と戯言を吐いた。

「しばらく答えは保留かな、レリックの事もあるし。監視だけは怠らないようにして。一人にしない事」

「ザフィーラにでもお願いしよか?」

「それでいいなら」

 ぐいとコーヒーを一気に飲み干す。

「テスタロッサ執務官の方も確認もしておいて」

「了解」

 それじゃ、と2人は別れた。あのクーパーという子供が何者で、どういう目的で、一体何をしていたのか。
もう少し原作をしっかり見ておけばよかった、と後悔したりする。
後日、テスタロッサ執務官は存在しないとの回答を本局人事部から受けて、はやてはより頭を悩ませる事になる。

 知らぬが仏。 兎にも角にも監視という名目でザフィーラはクーパーの監視を頼まれ医務室に向かった。
途中エリオ達とすれ違いながら一人廊下を歩き、医務室に赴くとシャマルが一人机に向かっていた。仕事中らしい。
入ってきたのには気づいて顔をあげた。

「あれ、ザフィーラ」

"主はやてから依頼でしばらくソレと共にする事になった"

"解りました、頑張って下さい"

 たまにクッキーお裾分けしますね、というシャマルの申し出を丁重にお断りしてクーパーの元へ向かう。ベッドに腰掛けて
ボーっとしているようだった。ザフィーラの存在に気がつくと、表情が固まっていた。大きさと、獣がいる事に驚いたのかと
ザフィーラは懸念した。

「驚かせたならすまない、私の名は」

「…ザフィーラ」

 獣の眉尻がおやとあがる。少年、クーパーの方は複雑そうな表情をしていた、なんともいえない顔をしている。
主はやてから名を聞いていたのか、と納得しておく。後で確認するのもいいだろう。

「ここにいる間、お前と共に居させてもらう事になった。すまないが、よろしく頼む」

 返事は無かった。その代わりに一つ頷いてみせる。了承と取り、ごろりとその場に伏せた。
でも、直ぐに違和感を感じ見上げるとベッドの上の黒猫がジッと見つめている事に気がついた。
威嚇はされていないが警戒も解かれてはいないらしい。

好きにすればいいと思いながらザフィーラは眼を閉じた。クーパーは、ずっと青い獣を見つめていた。
その後数回の検査の後、体は問題無い事が伝えられいつまでも医務室生活というわけにもいかないので一室が与えられる事になる。
ただし、ザフィーラと同居。

 医務室から部屋に移る際、案内してくれる人物というのがおもいがけぬ人物だったというのは言うまでもない。

「始めましてだね」

 医務室を出て僅かな手荷物を持ち、アルトとザフィーラとその人を待っていたのだが、
来たその人を見てクーパーはポカンと見上げていた。ん?とフェイトは首を傾げる。
エスティマからは大人しそうな子、と聞いていたが何か顔にでもついているのだろうか。

「ここの寮母と嘱託魔導師を兼任してるフェイトだよ。よろしくね」

 クーパーは何も言わなかった、いや言えなかった。いつまでも返事をしないから、ザフィーラも見上げるとようやく返事をした。

「…よろしくお願いします。クーパーです」

 ペコリと頭を上げ案内されるのだが、その最中フェイトが話を振ってもノリが悪く曖昧な相槌しか行わず話が弾まない。
折角フェイトが笑わせようとしても、しろくはないが微妙な目で見られてしまった。空気は最悪だ。
ザフィーラは我関せずを決め込んでいるらしく無言だ。

 がっかりな寮母だった。

 猫に期待しても駄目だと諦めた。ポジティヴな心がけは明朝以降と決めた。
部屋に案内すると簡単な説明をして別れた。が、クーパーにはやる事が無い。

「…暇だね」

部屋の中でザフィーラとアルトと2人と1匹になりぼそりと呟いた。む、とザフィーラは顔をあげたがいい提案などありはしない。
勝手な行動を取らせる訳にはいかないし、適当な読書を薦めた。部屋の中には適当な本が置いてある。
荷物を置くと適当な本を手にとって読み始める。ここでの日常が始まった。
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