【Take2.3 天国と地獄の空白期】
『レスカム地区廃墟都市アウトハイゼン! ホシを追ってたら例の自動機械が出てきやがった!!
このままじゃもたねぇッ!!』
「解った、直ぐ行くぜ」
その言葉に顔を顰めるクーパー。
「…あのですね」
驚いている間にヴァイスに通信を切られてしまい憤怒へと変貌していく。睨みつける。
「…自分が何をやったか解ってるんですか?」
「助けにいかなきゃならねえし、時間もねえんだろ?」
眼の前の男を見ながらある少女を思い出し似ていると感じた。あの高町なのはにだ。
彼女の場合はただ眼の前で困っている人を助ける用とする純粋な心をあの子は持っていた。
それでも今はあの事件とは違う。
「…僕達に出ているのは待機命令です、他の課もいるんですからそちらに回すのが妥当でしょう?」
「お前な、少しはその場の対応ってもんができねえのか」
「…その場凌ぎの判断で物事をしてどうなるんですか」
言葉を続けようとしたクーパーの胸倉を、ヴァイスは掴み荒々しく引き寄せた。互いの顔が接近する。
ヴァイスは衝動に駆られクーパーは憂う。
「理屈じゃねえんだよ」
自分の立場を落とす可能性、謹慎や降格に最悪クビ、そういったものを考えての発言だろうか? そうじゃないと考える。
青いな、と思った。それも空戦部隊にいながら何もできないでいる悔しさ故か。クーパーは正直行きたくなかったが、
ヴァイスの腕を振り払うと通信ウィンドウを表示させ溜息をつきながら、司令部に連絡する。
「…まったく、少しは頭を働かせて下さいよ。司令部には状況報告と一課に出動命令を要請しておきます。
僕達は状況が予想以上に切迫しているので先行した、ということにしましょう。どっちみち独断行動とか
問題は山積みですけどいいんですね。始末書やらなんやら書かされて叱責されまくって
クビなんて結末が待ってても。イー君みたいな結果になってもしりませんよ」
「誰だそりゃ」
答えない。溜息を落としながら、司令部のオペレーターと会話を始める。その間、ヴァイスが頷くのを左目は見ていた。
一蓮托生を思い出しながら連絡を済ませウインドウを閉じた。
「…急ぎましょうか」
「転送魔法か?」
「…隠蔽転送してる暇はありませんよ、アルト」
腹ばいになっていた猫が体を起こす。伸びもせずにクーパーに近寄り。
「…行きましょう」
「あ?」
どうやって、と聞く前にクーパーは指を弾きアルト用の魔法を発動させるとヴァイスは目を疑った。
盛り上がる筋肉に太く鋭い牙、猫から獣と呼ぶに相応しい姿に変貌を遂げたアルトに言葉を失う。
「…寝首をかかれるっていうのはこういう意味ですよ」
「よ、よく解った」
ゆったりした動作で動いたかと思いきや、ヴァイスをクーパーが掴みアルトに跨った瞬間、既に飛び出していた。
「なッ?!」
「…時間が無いって行ったでしょう。もう随分タイムロスしてるんですから急ぎますよ」
アルトはオフィスの窓から飛び出し、(5階)その間にヴァイスを背中に乗せ落下する。
「うおいいい!?」
「…大丈夫」
なんら問題無く着地すると疾走する。風を切り、建物を次々と通過していく。
ショートカットだ、とばかりに跳躍する建物を蹴り一気にビルの上を駆け抜けていく。
しがみついたままのヴァイスは苦笑いすら起こす気にならなかった。ひーひー言いながら騒いでいる。
「い、生きてる心地がしねぇ!!」
「…何を今更」
他人事のように溜息をつく。風を受けながら、この調子でいけば目的地までそうかからずに内につくだろう。と
クーパーは予想した矢先。
”そこの魔導師!! 止まりなさい!!”
「…………」「…………」
陸のどっかの部隊の車に追跡されていることに気づいた。2人とも眼が点になっている。
念話を受けてから数秒、ヴァイスが吼えた。
「制服で気づけよ?!」
”…こちら首都航空隊二課、陸士106部隊の要請により移動中です”
やれやれだ。
一方の陸士108部隊第3班、違法武器の取引をする男達を数週間に渡り捜査中、
ようやく現場を押さえ様とした挙句この様だ。検挙しようとした矢先にガジェットドローンと呼ばれる戦闘機械が突如出現。
AMFを展開され魔法はほぼ無効化され使用できず犯人にも逃げられた。
ガジェットを対処しきれずに廃墟都市の大きな建物の中に篭城し今に至る。
幸い対AMFの結界を張れる者がいたからいいが、バリアジャケットまで無効化されジリ貧状態だ。
通信もろくにできず、偶然繋がったどこかの部隊も直ぐに途切れてしまったし向こうからの返事も聞き取れなかった。
bこれ以上はもはや無理かもしれない、と班長は思った。
「すまねえなゲンヤさん、……ここまでかもしれねえ」
ガジェット達を睨みながら恨み節を吐き出す、畜生、と思った先結界を張る者がうめいた。
「まずい、やぶられる!!」
「くそったれ……ッ」
犯人を取り逃がした上この様だ。でもまあ、こんな結末もありなのかもな、と思いながら結界にヒビが入るのを見つめていた。
ガジェットドローン達はここが責め時と見たのか、一斉に射撃を繰り出し結界を攻め立てた。
まさに、結界が砕けるその時、1匹の獣が建物の中に突入し背に乗っていた何かが突入してきた。
1人は勢いを殺さずに108の結界の眼前に飛び込み、埃を巻き上げながらもブラウンの結界を展開し、
防御を担う。もう1人は獣の上に残っている。背に乗りながらライフルを構えガジェットに放っていく。
視界をくらませるマズルフラッシュが炸裂したと思えば撃墜していった。
「次ッ!!」
「…11時前方でかいのきます!」
そうだ、と班長は眼の前の人物にはっとした。結界を張っているのは子供だった。
獣に乗る男が眼前のガジェットを片したのを確認すると振り返る。
「…首都航空隊二課の者です。援護要請を受けて来ました。少々お待ち下さい」
「あ、ああ……」
班長の返事を確認するとクーパーは結界をそのまま前進していく。とてもじゃないが、班長の目には子供の姿には見えなかった。
緊急の敵をあらかた片し進み出たクーパーにアルトが歩み寄る。
その上に乗るヴァイスはまるで乗馬するかのように体を揺らしていた。
先程は前傾姿勢で射撃体勢をつくり格好よかったというのに、なんと締まらない格好か。顔を顰める。
「尻が痛えよ、これ」
「…後ろは元気にならないんですか?」
「ふざけんなこの野郎」
話しながらもぬかりなく周囲を警戒し、ヴァイスは再装填と共に魔力弾に対してストームレイダーに多重弾殻を施す。
スコープを覗かずに構え、連続して射撃を行う。隠れた場所にいたガジェットドローン達を撃ち抜く。
「問題無しだな」
クーパーは周囲に探査魔法をかけ、ガジェットの残りがいないかを確認すると顔を顰めてから唇を固く結ぶ。
「…所属不明の何かが飛行魔法で急速接近中です、方向は13時」
直ぐに、13時から来た。枕のような形をしたガジェットドローンとは異なり今度は人間だ。
青を基調としたスーツに身を包み、体躯はクーパーと同程度の小柄なものだった。顔は仮面を被り隠している。
アルトとクーパーは二手に分かれる。ヴァイスが警告する。
「管理局だ!! 大人しく抵抗すりゃ……!」
「…投降ですッ!!!!!」
「あ」
そんな馬乗り馬鹿1号に飛行魔法で仮面が突っ込む。アルトはぐんと体を屈めてより鋭いフットワークで速度を速める。
乗り慣れないヴァイスはあんまり突飛な動きをされるとついていけない、体を揺らしながら射撃どころではなくなっていた。
しかし、その体の揺らしが幸いだった。仮面はデバイスを展開させ得物を手にする。デバイスの形状は、剣だった。
「………ッ」
クーパーの脳裏には桃色の髪の剣士が浮んできた。剣は振るわれるもヴァイスは間一髪、揺れのお陰で紙一重によける。
流石にこれはたまらんと仮面から逃げるように動き始める。仮面は追撃の素振りを見せるが不安定の姿勢ながらも、
ヴァイスの射撃で足止めを喰らう。クーパーも逃さない。
スフィアを形成すると共に射撃を叩き込むが打ち消された。
「…再度警告します、投降して下さい。そうすれば」
”黙れ”
仮面は剣のデバイスのカートリッジリロードを行い空薬莢を飛ばす。くるくると宙を舞い排出された空薬莢が
床を叩くとクーパーに向かい一直線に突っ込んできた。無論、クーパーとて棒立ちで待っていたわけではない。
深く腰を落とし迎撃の姿勢を取る。
闇の書事件以後も鍛錬はかかさず行っている。
いつも通りだ。頭の中で組まれる構築式と魔力素を絡めて強固な盾を展開。
迫った仮面と振るわれる刃は性急だった、直ぐに剣と盾が激突し盾越しの衝撃が体を襲う。
シグナムとの戦いを思い出す。剣の威力は強烈だった。
エースと呼ばれる魔導師は
確実に盾を切裂かれその身を食い破られる気がしてならない。久々に殺伐とした感覚が戻ってくる。
盾と剣は拮抗を続け、どちらも一歩も譲らない。
仮面は飛行魔法で後退を余儀なくされる。下がると共にヴァイスの射撃がクーパーの眼前を通過していった。
お返しだ、と仮面は下がりながらも飛行魔法で浮かんだまま、後退の勢いを殺さずに刃を振るいカウンターの衝撃波を2人にそれぞれ飛ばしてきた。
当然、ヴァイスを乗せたアルトは回避で逃れ、クーパーは展開したままの盾で受ける。
しかし、ほんの一瞬で相手を見失った。表情を窺い知れない仮面は背後から刃を振りかぶるモーションに入っていた。
気づいた時には時遅し。
やられる、という言葉が脳裏に浮かぶ。
盾の構築も間に合わない。クーパーの判断が悪かったでないにせよ、相手の判断が上回っただけの話だ。
そのまま斬り捨てられると思ったが、黒い影がタックルをかまし派手に吹き飛ばした。
「…アルトッ!!」
間一髪で助かった。アルトの上のヴァイスはロデオに乗らされているようにがっくんがっくん揺れている。
再び意識は敵へ。アルトに吹き飛ばされた衝撃を飛行魔法で殺しつつ、油断無く構える。
クーパーは危惧した。相手は自分達よりもランクが上の人間の上空戦だ。
あまり状況はよくない。
ガジェットドローンの姿は見えないが、このまま闘い続ければ押し切られるのはこちらかもしれない。
押さえられる自信はあまり無かった。一課が来てくれるまでなんとかするしかないのか。
闇の書の事件が終結し、優秀なランカーの魔導師とやりあう機会はもう当分は無いと思っていたのに、嫌な気分だった。
そして気づいた。騎士かもしれないな、と。相手は宙に浮遊し続けたまま動くことなく、煙が晴れていく。
ヴァイスも相手からは目を離さずに銃を構える。
「おいクーパー、帰ったら奢れ」
「…何を言い出すかと思えば」
「このロデオ猫のお陰で尻が痛くてしょうがねえんだよ」
「…座薬ならいくらでも買ってあげますよ」
「手前は尻から酒でも飲んでろ」
相手が何の動きを見せないと思いながら話していると、
クーパーとアルトは、地より伸ばされたブラウンのチェーンバインドに拘束され捉えられる。
アルトは四肢を撓ませ脱出を試みようとするが脱出することは敵わない。ヴァイスは銃を落とし焦りの色を滲ませた。
クーパーは冷静な面持ちで敵を見据えた。
「…たかだか陸戦魔導師2人だって言うのに、丁寧な片付け方をするんですね」
仮面は何も言わない。浮かんでいた体をゆっくりと落として音も無く着地し2人に近づいてくる、
ヴァイスは焦りを滲ませるがクーパーは続けた。
「…先の戦闘機械も、貴方の仕業ですか?」
仮面はクーパーの眼前で立ち止まった。剣を構えることもなく、だらりとしている。
それでも、無造作にボルトアクションのカートリッジリロードが行われ、空薬莢が勢いよく飛び出した。
くるくると宙を舞い重力に従い落ちていく。
剣が振るわれ衝撃音が響く。
ヴァイスはクーパーの首が飛んだかと肝を冷やしたが、盾がしっかりと守り傷一つつけられてはいない。
剣呑な空気が漂う。クーパーはこのような状況にも関わらず、怯えを見せる事無く、一歩も引く事は無い。
沈黙が走り、仮面は仮面の下でくぐもった笑いを転がしていた。酷く、不気味だった。
”それが自慢の盾か左目”
相手はクーパーの事を知っているようだ。クーパーは、仮面の男を知らない。
仮面を外せば話は変わるかもしれないが……1人だけ、該当する人物が浮上した。
確信はできないし自信も無いが。皮肉の笑みを送り返しぼそりと呟いた。
それがヒットしたのかはしらないがクーパーに対して手が伸ばされた。
盾がそれを阻むも、接触する手が盾のプログラムを読み込んでいく。クーパーは相手が自分の盾を寸評するかのように。
接触する相手の魔法のプログラム読み解く方法は、デバイスに頼らずに闘う人間ならば可能なやり方だ。
クーパーもまた可能だが、あまりお目見えできるやり方ではない。まずい、と思った時には遅かった。
手は盾を突破しクーパーの首を鷲掴みにした。ぎゅぅと握り締められ血管が圧迫されるのを感じた。
このままいけば喉笛が握り潰される、とも。咄嗟にまずいと感じ抵抗しようとしたのと、
念話が送られてくるのはほぼ同時だった。
”覚えているか。”
問われたが直ぐには答えない。足元に魔法陣が展開され鋼の軛が飛び出す。鎖を断ち切り、仮面も跳躍し下がっていた。
僅かに咳き込み喉を摩りながら相手を見る。
「…生憎、仮面を被った知人はいませんよ」
仮面からの返答は無い。ヴァイスは銃を取り1対3の図は変わらない。
アルトが頭を下げ両の前足をステップを踏むように、たたんと動かした時、機は弾けとんだ。
仮面が動きヴァイスに刃を振るった。
早業でヴァイスは反応できなかったがアルトが身を沈めてその一撃を避け、剣は途中で盾に激突する。
その際の盾と剣の衝撃音にアルトが逃れクーパーのチェーンバインドが殺到する。
仮面は最小限の動きを以って回転するとクーパーに迫る、その際の動きで全ての鎖は断ち切っていた。
恐るべき腕というべきか。
クーパーも迎撃の態勢を整えるが銃声が轟く、ヴァイスだ。
盾は張らない、きたる魔力弾を最小限の動きを以ってやり過ごし体を掠めて飛び去る魔力弾達。
その間もクーパーと仮面の目と合っていた。
その眼は言う。貴様を殺す。
クーパーも興奮した、剣山の道を走り抜けてくる敵の心胆に魅せられていた。
胸の奥から込上げる何かをぐっと押さえ盾を作り迎撃する。
先程とは異なった構成の盾を構築。
そう簡単に己の盾は砕かれてたまるものかと。再度剣と盾は激突する。
仮面は拮抗をよしとせず演舞のように体を躍らせ次々と不規則な斬撃を上下左右から隙間無く叩き込んでいく。
クーパーは顔を顰めたとき、再びヴァイスの射撃が飛び込んでくる。仮面は下がらない。
クーパーは背筋ならぬ背骨に水を浴びせられる錯覚を覚えた。
僅かに体を揺らすような動作だけで射撃は避けられあらたな斬が盾に叩き込まれる。
「化け物かっつーんだよ! 下がれクーパー!!」
「…了解」
ヴァイスが弾の切り替えを行っているのを確認し床を蹴って脇へと一気に跳ぶ。
同時に、ヴァイスはストームレイダーを構え、目を細めた。
「くらいやがれいんちき野郎!」
『Hasta la vista. baby.』
相棒は皮肉を込め、魔力弾は先程とまでの単発と違う、小さく細かな散弾がしたたかに仮面の男を打ち据える。
1発では止まらない。トリガーから指を離した後、ストームレイダーは連続して散弾をぶちまけ動きを止める。
間は置かない、相手が動くよりも先に最後だストームレイダーは最後だけ魔力弾を換装させると、
ひゅぽんとなんとも間抜けな音を放って
「…………………ッ」
眼前が爆炎に包まれる有様を。余波が2人を飲み込むよりも前に広域結界を敷き熱からガードする。
散弾で周囲に散らした魔力を火種とばかりに属性付与の魔力弾で引火。強引に爆発を巻き起こしたらしい。
なんていう無茶を、と思いながらも結界の維持を図る。魔力弾の再装填をしながら、ヴァイスはうめいた。
「やっべ、やりすぎたかな」
「…どう考えてもやりすぎでしょうに、座薬は鼻から入れてあげましょうか」
「お前が入れてろよ、ったく。……あ、でも死んでるなんてことは」
「…ある訳無いでしょう非殺傷設定なんですから。
それに、この爆炎でも相手はバリアジャケット着てますし死ぬ事なんてありませんよ」
それに、と荒れ狂う炎を見つめながらクーパーは眉を潜めた。無傷、とは思わないが仮面がノーダメージとも思えない。
次は何が来るか、と警戒していた矢先に炎が芭蕉扇で煽られたかのように歪んだ動きを見せた。
その炎の中からは衝撃波が2つ飛び出してくる。クーパーとヴァイス、それぞれにだ。炎用の結界は一撃で砕かれクーパー、
アルトはそれぞれ床を蹴って逃れた。
”時間が無い”
「…?」
意味が解らなかった。何かあるとでも言うのだろうか。
再びカートリッジをリロードさせ空薬莢を飛ばし、ヴァイスとアルトへと飛行魔法で突き進み、それに対しアルトが床を蹴る。
鋭角の動きで相手を翻弄しようとするが、鬼ごっこの鬼のように相手は止まらない。
クーパーも鋼の軛にチェーンバインド、そしてヴァイスもまた揺れながら射撃を叩き込もうとするが悉く避けられる。
もしくはなぎ払われ砕かれる。やはり援護職の人間2人で騎士向けの武器を手にしている人間を相手にするのは無理があるのか。
「…アルトッ!!」
クーパーの声を受けて追跡される猫がちらりと主を見た、それだけで意図を汲み逃げる速度を上げた。
逃さない、とばかりに仮面も速度を上げる。アルトは大きく迂回してからクーパーへと一直線にかけていく。
乗っているヴァイスへと念話を送る。
”…捕獲します、任せて下さい”
”お、おう”
前を見据えながらも睨むクーパーに圧倒されヴァイスは片言に頷く。奴が、来る。
アルトとクーパーがすれ違うのは一瞬だ。ネット代わりの強固な盾とチェーンバインドを形成、仮面を迎え撃つ。
一方の仮面も飛来しながら剣を構えた。
直ぐにクーパーとの距離は詰まり盾もろとも破壊しようとする。歯を食いしばり、
拳と腹筋に力をいれ体内で練る魔力を活性化させる。左目は敵を見据えたまま刮目された。
待ってましたとばかりに鋼の軛が仮面に向かい飛び出していき貫いていった。捕獲目的だから肉体の損傷は無い。
仮面は構えた姿勢のまま束縛されたことにも関わらず、押し切ろうと無理やり腕を振るう。
「おおおおおおおお!!!!!!!!」
初めて叫び声が上がったがクーパーも構えていた。
拳に範囲の小さな盾を形成し、全力でふりかぶり拳を振るい剣の軌道に直撃させた。
攻守が激突し余波の衝撃波が巻き起こる。果たして、敵を打ち破るのはどちらか。
距離をおいたヴァイスとアルトも注目する中。煙はゆっくりと晴れていく。
そして、姿を魅せたのはクーパーの上に馬乗りになり、首に剣をつきたてる仮面の姿だった。
仮面の下半分は砕け口許を晒していた。呼吸を乱しながら、左目、左目と呟いている。
「おいクーパー!!」
ヴァイスが声をあげるが何も変わりはしない。そう思う間に、仮面の剣を握る手は震えながら
クーパーの喉元に強く押し当てられる。このままいけば喉笛を食い破り、死を迎えるだろう。
「左目、左目……」
怨嗟の声が響く中、えいと剣は高らかと掲げられ、そこからクーパーに向かって振り下ろそうとした時、
一本の射撃が伸びた。カウンターのように首を剣が抉るよりも早く、仮面の体に直撃し吹き飛ばした。
誰だ、と思いきやクーパーとヴァイスにはよくよく見覚えのある人物だった。ティーダだ。
飛行魔法でアルトに跨ったままのヴァイスに跨るアルトの傍に……は降り立たず、少しはなれたところに降りた。
「2人とも、先行とか無茶しすぎだよ」
仮面にもリングバインドを無数に仕掛けて抵抗を封じる。倒れた後は死んだように動かなくなってしまった。
クーパーも上半身を起こすと口許を拭う。ティーダが近寄ってきて手を差し出してくれた。
それを掴み、ぐっと力を入れて立ち上がる。
「…どうも」
「怪我は?」
「…特には」
問題ありません、と続けながら仮面を見る。左目に宿る感情は哀愁だった。ヴァイスもアルトを降りると
蟹股歩きで近寄ってくる。変な歩き方で、思わずティーダは笑ってしまった。
「どうしたの?」
「あのロデオ猫のせいでケツが痛えんだよ。お前も乗ってみろ。すこぶる快適だったぞ」
「僕は遠慮しておくよ」
笑ってやり過ごそうとしたが、次の瞬間。仮面の肉体が弾けとび、肉体は粉みじんとなり血を盛大に飛び散らした。
臓器も、肉も、何もかもが散り散りとなって形も残さずに血に混じる。
血臭が3人の鼻へと辿りついた。各々が驚きと戸惑いを隠せず、顔を顰めたり鼻を覆った。鉄臭くてたまらない。
あの仮面の男は何者だったのか。クーパーにはまだ、答えは出せないでいた。
彼は仮面に馬乗りにされた時、接触する仮面の男のリンカーコアが崩壊する感覚を感じたことは誰にも言わなかった。
これが初陣のヴァイスにしてみれば、まずまずだったのだろう。
「さっすがクリボー、よくやるっスねー」
「そうかぁ? 最後吹っ飛ばされてたじゃん」
「そういうのもひっくるめて、っスよ」
「ふーん……よくわからないや」