感情の水面へと落ちる。
飛沫があがり体は濡れる。
何も考えられない。
目を閉ざして潜り続ける。
息なんて関係ない。
死んだっていい。
唇を強く噛む。
脳裏にユーノの笑顔が浮かんだ。
涙が溶ける。
消えてしまう。
どれだけ泣こうとも意味がなくて。
ただ笑顔が欲しかった。
優しくして欲しくて。
甘えたかった。
子供だから。
子供だから?
何が子供で、どう違っていて。
理解できない。
形骸した何か。
醜いもの。
汚いもの。
目を背けたくなるもの。
臭いもの。
吐気がするもの。
近寄りたくないもの。
視界にいれたくないもの。
歯を強く食い縛る。
強く追い求める。
欲しいものは手に入らない。
目を開けば周囲は闇。
体に触れるのは感情の水。
真っ黒な憎しみの塊。
それでも奥へ。
さらに奥へ。
足を強く蹴り水面から更に遠ざかる。
何者もいらない。
ただ1人でいいという愚かしい考えに犯されて。
兄はもういない。
1人。
ただ1人。
水が震える。
感情に身を悶え足が止まる。
世界が壊れるのを必死に堪える。
兄さん、
兄さん兄さん兄さん兄さん、兄さん。
世界を繋ぎとめてくれた人が消え掛けている。
愛しさと切なさと苦しさに襲われる。
多量の水を飲みながら、憎しみを増していく。
それでもいいと思い、願った。
そうでなければ壊れてしまう。
そして、兄との関係を放置していた自分自身に激怒する。
異端な感情がなければ危うい。
例え間違っていたとしても。
耳元で悲喜交々の声が聞こえる。
口許からあぶくが逃げていく。
何も見えない。
何も聞こえない。
何も言わない筈なのに。世界は騒音に満ちていて。
何も届かない闇へと手を伸ばす。
過ちが本望で狂ってる。
憎しみに満ちた感情を受け入れれば、できあがるのは醜い復讐者。
何が正しくて何が間違っているのか。
誰かがいう。

何を見ていたのかと。
感情を以って浅はかな否定。
喉を動かし盛大に憎しみを飲み込んでいく。
ささやかでいて大きくて、一滴の猛毒が世界には蔓延る。
憎む相手がいなければ壊れてしまうほどに危うかった。
身悶える程に狂おしく、感情の底にぶつかる。
待っているのは何もない終わり。
遠くて寒い孤独に抱きしめてもらう。涙も出てくる暇も無い。
唇は頑なに結ばれていた。
これでいいと願う。
誰かを憎む事で自分を維持できる。
誰にも言えない事があって知られずに済む。
泣き虫さんは声をあげて泣くよ。
理解されない泣き声あげて。
うるさいと苛立たれるけど、理解は求めない。
闇の奥から「僕」の群れがやって来る。
外の音は何も聞こえない。
慙愧は遠く身を焦がす。誰にも届かない憎しみの咆哮をあげる。
誤った道を突き進む。深いと思う浅はかさで。

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