「クーパー君は、どうして私を助けてくれるの?」

 クーパー宅から帰る間際、玄関前でのなのはの質問に少しだけ間が空いた。口許に手を運び考える素振りを見せる。

「…フェレットがなのはさんの世話になったというのもありますし、単純になのはさんが心配、というのもあります」

それを言うと一拍子を置いてから、おお、となのはの顔が変化する。

「わ、私が?」

思わず、聞き返してしまう。

「…はい」

「心配……?」

「…ええ。まずかったでしょうか」

「う、ううん!そんなことない、そんなことないよ。ありがとね。それじゃまた明日」

「…ええ、また明日」

クーパー宅ならぬマンションを出て、夕暮れも収まり暗くなり始めた道を1人歩く。心配してるよ、と誰かに言われるのは悪い気がしないでもない。同世代の男の子に言われたのは初めてだ。

「そっか、うん。私心配されてたんだ」

 ぴょーんと足取り軽くスキップになってから足早に走り始める、気持ちは高揚としていてどこまでも気持ちがいい。魔法への足がかりもついた。
自分の問題点も治せるかもしれない。順風満帆、なのか。いやそう思いたい。帰り道を走りながらなのははとてもご機嫌だった。多分、
クーパーよりもユーノの方がものっそい心配してただろうに彼涙目である。なのはが帰った後クーパーはキッチンに無造作に置いてあった瓶を取る。

 コルクを鳴かせ口をつけると茶の枯葉色の液体を僅かに口に含む。口を焼き喉を焼く感触が好きだった。アルトがそんな主を見つめる。用件は唯一つ。



ごはんくれ。



【Crybaby 第15話】


「来たよ、クーパー君」

放課後、真っ直ぐにクーパー宅に向かったなのはだが、到着してみると思いがけないものを目にした。

「(あれ?)」

 靴を脱いであがりながら、相変わらず殺風景な部屋の中で1人。いや1人と1匹が床に丸まって寝ていた。正確にはクーパーがちびアルトを抱きしめて眠っていた。
抜き足差し足忍び足で近づくも1人は起きる気配がない。1匹はなのはが玄関を開けた時点で気づいていたらしい。横になったままお前ですか。という目で見つめてくる。

「こんにちはアルト」

 挨拶をしてみると尻尾をぱたぱた動かしてくれた。昨日のこともあるが大きくなければまだ触れる。大きいと、もうやばい。アルトをなでながら寝ているクーパーに目がいく。
相変わらず、右目には眼帯を付けたままだった。寝ている時ぐらい、外せばいいのにと思うもののふと気づく。小さな興味心がむくむくと芽を伸ばす。眼帯の下は、どうなっているのだろうか。
子供心に興味がでてきた。そっと、あくまでもそっと手を伸ばそうとした所で左目の瞼が微動し、ゆっくりと開かれた。そして気の抜けた顔でなのはを見る。

「…ああ、いらっしゃい」

「う、うん」

 起きてしまった。勢いよく手を引っ込める。ヒヤリとした心地だ。眠そうな左目は何度かまばたきをしてから、
ぐっと体を伸ばして立ち上がる。簡易キッチンの流し台の方へ向かう。

「…ちょっと待ってて下さい」

 キッチンもどきで顔を洗うと近くに置いてあったタオルで顔を拭き、
ペットボトルの水を飲むと顔を叩いた。

「…それじゃ、始めましょうか」

「お願いしますっ、……眠そうだけど平気?」

 何故か敬語で頭を下げたなのはに、クーパーは頭を掻く。

「…平気です。ずっと探査をしてただけですから。それじゃ昨日のことから順を追って説明していきましょう」

 クーパーが指を弾くと待ちかねていたように、アルトの大きさが中程度のものになる。
それにはなのはも思わず身構えてしまう。そこで、クーパーの待ったが入る。アルトも警戒を解く。

「・・・なのはさん、フェイトは貴女と対峙した時どんなことを考えていたと思います?」

「え?」

 疑問系の声をあげてしまう。そんなこと考えた事も無かった。

「えっと……、倒す事だけを考えてたんじゃないのかな」

「…そう、ですね。戦闘を行う魔導師ならそれは誰しも考えることです。でももうちょっと考えましょう。
あくまで仮定でしかありませんが、フェイト・テスタロッサは、多分。なのはさんを怖いと考えていたはずです」

 その言葉に目が点になる。

 フェイトが、自分を恐れていた? そんなこと考えるはずもないと否定する。

「そんなこと……」

「…ある訳が無いと思いますか?」

 クーパーは、指で鉄砲の形を作るとなのはに突きつける。

「・・・なのはさんと戦った魔導師は、恐らくこう思うでしょう。砲撃が尋常じゃない。異常なまでに正確な誘導弾を有している。やりづらい。
通常、砲撃魔法というのは一撃必殺に近い魔法です。それをなのはさんは連発を可能にし、その上とてつもない威力を誇ります。
さらには砲撃を張りながらも俊敏な誘導弾すら使ってみせる。普通の魔導師からすればなのはさんは、ゲームでいう"裏技"を使ったと
感じるぐらいの強さを誇っているんですよ。驕れとは言いませんが認識はして下さい。かくいう僕もその力は羨ましいぐらいですから」

 そんな話を聞かされても、管理外世界の住人たるなのはは、ほへーと思うしかない。自分の強さがそんな類までいってたのは、信じられないという話でもある。

「……で、そんななのはさんの相手にしたフェイトは苦戦を強いられたことでしょう」

「でも、私。フェイトちゃんと一番最初に戦った時なんか何もできなくて……」

「……あれは、フェイトとその使い魔による連携による勝ちですが。それにあの戦いでなのはさんは技量や戦闘の勘、そういったものが足りないと自分で感じ取り特訓をしてたんじゃないんですか?」

「そうだけど……」

「…戦う回数を重ねるごとになのはさんの動きはよくなっていますし、問題はありませんよ。それになのはさん。
ご自身の戦闘経験とフェイトの戦闘経験にどれ程の差があると思ってるんですか? 僕としてはむしろ、ここまで善戦するなのはさんが凄いんですけど」

 そこで、遠慮がちに、戸惑った声があがる。

「ね、ねぇクーパー君。私のこと、持ちあげすぎじゃないかな?」

褒 め言葉ばかりで不安がこみ上げてくる。強くしてくれる、というから期待はあるがそれでも此処まで持ち上げ上げられると、不安は消えない。何せ負け通しなのだから。

「…言った筈です。認識しろ、と。驕りは駄目ですが何事にも知らなければ始まりません。
でもご自身の実力に自信が持てないのも、解らなく訳ではありませんが、とはいえ何事にも、
習うより慣れろなんでしょうね」

 説明が面倒臭くなったのか、アルトに声がかかると、再びなのはに牙を剥き、威嚇してくる。
当然、目が離せなくなるが、まだ小さいので、心に安堵を齎す。

「…どんなに強い魔導師でも状況が解らなければ、戦いようがありません。考えて下さい。
相手が何を考えているのかを、相手の行動を」

 ただ、黙したままなのははアルトと向き合っていた。やはり緊迫しているらしい。
余程、昨日の最後が怖かったと見える。

「…敵を知る事は大切なことです。そして、何よりも大切なのは…なのはさん。
二歩、下がって下さい」

返事も無くなのはの足は何かを探るように、そろり、そろりと二歩後ろに下がる。
少しだけ、アルトと距離が開けた。クーパーもそれを確認し頷く。

「…戦闘の状況を常に把握することです」

そう言いながら、クーパーはなのはの手を取る。なのはにしてみれば手を取られたというよりも握られた。
だろうか。指先と掌にクーパーの手の感触が伝わってくる。

「クーパー……、君?」

アルトから眼は逸らさずに、なのはの疑問系がさ迷う。

「…今から、アルトを最大サイズにします。眼は逸らさずに自分の状況を色々と考えてみて下さい」

「……ん」

 クーパーの手が、なのはの手をぎゅっと握り締める。それでも、心臓がより激しく暴れ始めていた。怖い。昨日は気絶するほどの恐怖だった。
それに今度は耐えられるのか?なのははぶり返しの恐怖を受けながら、アルトから眼は逸らさずにひたすらに考え、恐怖と戦う。そうでもしないと、気が狂いそうだ。
知らず知らずのうちに、クーパーの手を硬く握り締めていた。しかも、小刻みに震えている。孕んだ恐怖はなかなか拭えそうに無い。

「…いきます」

 言葉と共に、クーパーの空いている片手が、パチンと宙で鳴る。足元で魔方陣が発動されるや否やアルトが光に包まれる。当然、その次は解っている。なのはの心臓の鼓動は加速した。
恐怖の死神に追い立てられる。その果てに待つものなど、考えられる余裕は、どこにもない。光が収まる。1匹の獣がなのはを睨みつけ内なる恐怖が加速する。
逃げたいと叫び声をあげていた。心臓が早く逃げろ馬鹿野郎とせっついてくる。血管を走る血液もひーひー言いながら駆け回っている。

「…落ち着いて。眼は逸らさずに今の状況を考えて。なのはさんは、僕の手を握っている。昨日と違い、1人じゃありません」

 怖い。怖くて仕方が無い。

 こわいものは怖いのだ。ゆっくりと呼吸が乱れ心臓は狂ったように激しく動いている。だというのに全身はアルトに睨みつけられて、
石のように固まっている。指先一つ動かない。それでも片手をクーパーが握っている事だけは、頭の片隅で理解できた。

「…なのはさんの状況は一人じゃありません。誰かの手を握り、何かをしている。フェイトと殺し合いをしているわけじゃない」

 そんなこと言われてもとアルトの瞳を注していると次第に呼吸が乱れていく。それが加速し過呼吸のように、入乱れた呼吸になっていった。
人の呼吸というよりも死ぬ間際の吐息に見える。そして、呼吸が途切れそうになる寸前でクーパーの手がなのはの口許を押さえ込んだ。息ができない。
それでも意識は鮮明にある。……拷問だ。

「…息をしないで、目をつむって」

 アルトは身を翻し、その場から離れる。なのはは口を押さえられながら眼を閉じて必死にあれこれ考えた。そして、息苦しくなる前にクーパーの手が離された。体は力が抜けて床に崩れて尻餅をつく。
急遽胸を満たす酸素に何度も吸って吐いてを繰り返す。その上で座り込んだまま力も出ず、昨日は気絶、今日は中断されたが
恐怖から開放されたとはいえ、圧迫感からの急激な開放に心が追いつかず瞳から涙が毀れた。止まる事を知らず、拭っても拭っても毀れる。雫はいとも簡単に床を叩く。

「無理……無理だよ。できないよ、こんなの。絶対に無理だよ……」

 なのは自身はいとも容易く折れたのか。しゃくりをあげながら否定する。本人からすれば怖くてとてもじゃないが向き合っていられない。威嚇する大型の獣と向き合って、
恐怖を抱かない者はいない、が。それでも、頭上からは冷たい言葉が降ってくる。

「…泣くのも簡単ですし逃げる事も簡単です。でも、一度逃げたら戻ることは簡単じゃありません。
ましてや辛い事に立ち向かうということは、非常に困難なことです。が、道は数多に存在し逃げるのも、立ち向かうのもなのはさんの」

クーパーは簡易キッチンの方に足を向けると、ペットボトルを取り、水を口にする。

一息。

「…自由です。帰りたいと思うなら帰って頂いて構いません。荒治療で申し訳ありませんがこのやり方以外僕は思いつきません」

 クーパーも壁際に座り込んだままそれ以上、何か言う事はなかった。アルトを傍に侍らせなのはなどいないかのように左目を閉ざして沈黙を守る。時間が過ぎる。
時計も無ければ指針の音もせず。時たま外の音が流れ込んでくる程度。時折、アルトが顔を動かす程度で、俯いたまま身動き一つ取らなかったなのはが、再び立ち上がる。
それに反応しクーパーも目を開いた。か細い声が、先手を打つ。

「あの、さ」

黙っていても聞き逃しそうなその声は、なんとか聞き取れた。

「…なんですか?」

一度だけ、溜息をつく声が聞き取れた。

「本当に私にできるのかな?」

立ち上がったものの、なのはは未だ俯いたままだ。顔も見せずに聞いてくる。

「やる気があるのならば」

「なら私、頑張るよ」

 顔上げて、なのははクーパーを見る。その眼に、涙は無い。その代わりとばかりに強烈なまでの瞳に貫かれる。火を滾らせるように、
より熱く、歯は食いしばられている。一体何が、そこまでなのはを滾らせてると思ってると、

「ここで逃げたら、絶対に後悔するもん。それに、フェイトちゃんができるなら……いけるよ、まだまだいける」

 そんなことをのたまった。いいこと、と言えばいいことだが。思いの外、根性があるらしい。クーパーもそれに倣い、壁に預けていた体を立ち上がらせる。再び、立ち上がる。
同じことを何度も繰り返すのは馬鹿のやる事だ。これ以上挫折を繰り返すならば高町家に送り返す事を、決めながら。

「…再三言いますが、周囲の状況を常に把握して下さい」

「うん」

 なのはの眼は、アルトを見ている。それに反応して、腰を下ろしていたアルトも立ち上がり、唸り声をあげた。既に準備はできているらしい。にらみ合ったまま、なのはは呟く。

「クーパー君」

「・・・なんでしょうか」

「ごめん。手、いいかな」

 アルトに注したまま、なのはの手が宙を泳ぐ。まるでダンスの誘いだ。でも、実際はそうじゃない。恐怖を堪える為の、今は一時しのぎだ。なのはの手をクーパーは取りぐっと握り締める。

「…頑張って下さい」

 次の瞬間、なのはの強烈なまでの握力が、クーパーの手にかかる。握りつぶされるかのような痛みを感じていると一歩、二歩となのはの足はアルトに向かい進みでていた。
まだ、僅かに震えているにも関わらず、己の恐怖、そして状況の把握を試みようと、なのはは口の中で、呪文のように何か呟いている。クーパーがいること、
アルトの状況、己の状態、この部屋のことまで。些細な事を、アルトに注しながらも、感じえられることを全て頭に叩き込みながら威嚇するアルトと向き合う。

 恐怖という最大の敵を前にしながらもなのはは戦い続けた。状況に動揺しない心を作りながら、ただただ、時間だけが過ぎていった。





「…お疲れ様です」

「……あ、ごめん。お疲れ様」

夕暮れ時、日から差し込む光を受けながら、なのはは壁際に座り込んだまま、ぼへーっとしていた。
隣には子猫の状態になったアルトが丸まっている。その隣にはクーパー。ときたま、なのはの手はアルトを撫でたりしながら、
まるで抜け殻みたいに過ごしている。

「…よく耐えてましたね」

「……ん」

我ながらよく耐えた、という感想を抱く。正直、今思い出しても怖いといえば怖い。結局、15分間アルトと向き合い続けて睨み合いは終了した。とてもじゃないが、
結果の感想だけ述べると生きた心地はしなかったようだ。獣の瞳を直視し真正面から向き合うことがどれだけ怖いか。それは圧して知るべし。

「……ねぇ、クーパー君」

「…なんです?」

「……私、さ。本当に強くなれるのかな」

「…この国の言葉に、心技体。というものがありますよね」

「……うん、あるね」

「…現在の段階で、なのはさんがフェイトに負けているのは心だけです。もしもそれが完成したら」

その先は言わなかった。なのはがクーパーを見ると、口許に指を当てて眼帯をかけた顔は笑っていた。

「…凄いことになるかも、しれません」

「にゃはは」

 なのはも、思わず笑ってしまった。自分の気持ちがどう育つかは解らない。でも、なのははフェイトに会いたい気持ちは変わらない。
それは今も先も変わらないと思う。確かに拒まれたがそれでも話をしたい。諦めるという気持ちは持ちたくないのだ。話を聞いてもらえないのならば、強硬手段に出るまでだ。

ただ、それだけだった。

 数日の間、なのはとクーパーとアルトのそんな関係は続いていく。時折クーパーは、アルトに変化をつけさせてなのはに臨機応変さも求め始める。何も睨めっこが訓練ではない。
基礎の基礎はどんな状態でも状況を把握する事。当初はアルトの変容になのはも驚いてはいたが、そこはなにするものぞ。くじけるものではない。やはり、飲み込みが早いと思っているうちに
なのははどんどん吸収していく。何か敵から刺激にも動じず、状況を把握できるクレバーな心が住み着いていく。

 状況に応じ思考を回し、そして己の恐怖を突き破った向こう側の何かをなのはは見ていたに違いない。そんなある日の午前、クーパーはジュエルシードの捜索でとあるビルの屋上に赴いていた時クロノから念話が入る。
チャンネルをあわせて意識を向ける。

"話したい事がある、アースラに来てもらっていいか?"

 ビルの上で風を受け街並みを見つめながら、念話を返す。

"…構いません、転送をお願いします。"

"了解した。"

 ジュエルシード探しは中断だ。念話が終了し街並みを眺めながら待つ事数分。直ぐにクーパーの体は衛星軌道上のアースラの元に運び込まれた。
ビルの上からアースラ転送室に移動したクーパーは直ぐにブリッジに向かおうとすると途中でクロノに捕まった。

「来たな、会議室へ行くぞ。艦長から話がある」

「…はい」

 2人の足はブリッジではなく会議室行きだ。割と早足に2人の足が動きながらせかせか動く。直ぐ会議室についた。入ると、驚いた事に、中にはリンディ、エイミィだけだった。

「来たわね」

「お待たせしました、艦長」

 2人が着席すると話が始まる。エイミィがコンソールを叩き、映像が浮かぶ。すると、でてきたのは鳴海市内の、ビルの一群だった。その中でも、
さらに絞り込まれ一つのビルがクローズアップされる。

「フェイト・テスタロッサが潜伏先にしていると思われるビルを、確認しました。本日の夜奇襲をしかけたいと思います」

 クーパーはその言葉に少々意外性を覚える。なにせ、場には現場に行けそうなのが2人しか顔を見せていないのだから。

「…僕と執務官の2人で、ですか?」

クーパーの疑問にクロノが被せてくる。

「いや、正確には武装隊もだ。作戦は周辺を覆う結界を展開し、21時に魔法をビルに叩き込んで風穴をあけて僕と君の2人が階上から飛行魔法で突入する。
武装隊は階下から突入する、という形だ。解ったか?」

「…クロノ執務官の突撃はいいのですが、僕は飛行魔法を使えないことは、忘れていませんよね」

「当然だ。君は僕が抱えていく」

君はあの猫を抱えてくれればいい、という台詞にうげっとしないでもないが、一つ、気になることがあった。

「…兄は含まれないんですか」

「流石に、今の状況じゃ無理だろう。それを考慮して僕と君の、2人だ」

「………」

 解っていた様な、解っていなかった様な。ここ数日、クーパーはどちらかというとアースラから離れ自分の拠点を中心に動いていた。
兄の様子は聞いていなかったが想像できる範囲内だ。クーパーからそれ以上の意見は述べられなかった。淡々と夜のことについての説明に入り、内容を把握すると、直ぐに解散となる。
決められている突入時刻は21時ジャスト。解散になると、早足に兄の部屋に向かう。廊下をずかずか歩く、歩幅が大きくなり思いの他早く歩きユーノの部屋の前にたどり着く。

 部屋のブザーを押した。かすれた声で中からどうぞと反応が返ってきた。軽い空気音と共に自動のドアは開く。

「…………」

机に向かう兄の姿が、あった。振り向いて軽く自嘲のような笑みを浮かべる。

「何か、用?」

 どれだけ泣いたのかは知らないが、クーパーの眼には、ユーノがとても荒んだように見えた。先の一件から未だに立ち直れずにいるのか。表情が厳しくなる。クーパーも追い込んだのが自身である事は解っている。
それでも尚腹が立った。この程度で立ち直れずにいる兄が憎い、無様を晒す兄が惨めでどうしようもなく苛立った。

「…フェイトの拠点が、海鳴で発見されました。本日21時を以って突撃します」

「そう」

「…兄さんは、突入の面子に入っていません」

「そう」

「…それだけ、ですか」

「うん」

 その会話内容にクーパーがキレた。部屋に入ると何も言わずに、ユーノの胸倉に掴みかかると引っつかんで無理やり立ち上がらせ壁際へと叩きつける。
胸倉を掴む手が震えた。相変わらず、ユーノには皮肉った表情が浮かぶ。

「痛いな、何するんだよ」

 怒りは人を酔わせる。何も考えさせずにただただクーパーを染め上げた。左目が睨みあげる。

「…自分の様を見てから言ったらどうなんですか、貴方は何でそうなんですか? 何でまだここに居座ってるんです。
いつまでも無様を晒したいだけならアースラから出て行け! とっととスクライアの集落に戻れ他者に迷惑をかけるな常識だ!」

 その言葉にユーノが反応し、胸倉を掴んでくる腕を掴み爪立てた。皮膚に食い込みじわりと血が滲む。
ユーノもまた、怒り持ち上げてくる。

「お前に何が解るんだ……っ!」

 解る筈も無し、クーパーは歯を食いしばり左目が凝視する。この2年幾度となくこの男を殺してしまいたいと考えた事か。胸倉を締め付ける形で煽り立てる。

「…解らない……ッ、ああ解らないさ! 兄さんのことなんか何年たっても解りゃしない!
僕を裏切った人の気持ちなんて解りたくもない! それでも今の状況は兄さんの気持ちとは関係ないだろッ!!
僕だってお前のことなんか嫌いだ!!大ッ嫌いだ!! 頼まれなければ九十七管理外なんか来たくもなかったさ!
仕事だってある! お前なんか見てるだけで虫唾が走って仕方ないし会いたくもなかったんだよ!!
……っ、……でも、そんなこともどうでもいい。えそれでもあんたは管理局に協力するって言ってここにいるんだ。
引き篭もりたいなら他所でやれ! なのはさんは、」

そこまで言いかけたところでユーノの手がクーパーの顔面を捉えた。言葉は途切れ続きは言わせてもらえない。

「それ以上言われなくても解ってる……っ」

「……ッ」

 2人はにらみ合ったまま動こうともしない。憎しみの感情だけが上乗せされていき、もう祓うことはできないのか。
琴線を保つ気はないとばかりにクーパーは手を離しユーノの手を振り払った。乱れた呼吸で、ユーノを睨みつけて口を開いた。

「…同族としてこれ以上恥を晒さないで下さい。待機ぐらいしておいて下さいよ」

 それだけ言い切ると踵を返しその場を後にする。ユーノは1人部屋に取り残され、クーパーは廊下を早足に歩きながら自室に戻る。
クーパーは海鳴には戻らずアースラに居続けた。なのはには念話を送り今日は無しの旨だけは伝えておく。アースラの使っていない部屋に戻って何をする気にもならず。
部屋の片隅にうずくまり、アルトを呼び出すと抱きしめた。兄に顔を合わせるとどうなるか解らない。部屋の片隅に蹲り続ける。アルトが心配そうに体を擦り寄せた。

 目を閉じる。あんな事言うつもりはなかった。アルトを避けると膝を抱いて再び俯いてしまう。2年ぶりに会えたのにろくに話もできていない。
口を開けば酷い事をばかりいう始末。額を膝に押しつけ体を震わせながら静かに呻く。

「…何も変わってないのは、僕の方じゃないか…………最低だ……」

 その言葉が最後まで続く事はなくアルトは心配そうにそっと傍に侍る。時間が来るまでの間、1人と一匹押し黙っていた。










PM 8:30

「準備は?」

「…問題ありません」

 突撃30分前、クーパーとアルトとクロノは近場のビルの上にいた。夜の風に撫でられる。僅かな肌寒さもあるが心地よい。やり方はしごく簡単で
結界まみれのビルにクロノがスティンガーレイをぶち込んでクーパーを飛行魔法で抱えて、突入と同時に階下からも武装隊を突撃させる。
さらには結界を敷いてフェイト達も閉じ込め、階上と階下から同時に攻めて捕縛作戦となった。ただ、その突撃の開始となるビルの二名は緊張感もなく夜の空気を味わっていた。
曰く、待機である。

 クーパーは久しぶりに顔をニット帽で顔を覆い隠し表情を晒さない。クロノもそれを伺っていた。

「…なんです?」

「いや、羨ましく思っただけだ」

「…羨ましい?」

 突然何を言い出すのか、執務官の台詞に違和感を覚える。羨ましいと思われることが、何かあったのだろうか。
指でニット帽を押し上げると、左目をさらす。

「兄弟がいる君が、少しだけ羨ましかったんだ」

「…そんなにいいものじゃありませんよ」

「僕も、何でもいい。とにかく兄弟が欲しかったんだ。でも、ねだってできるようなものでもないしな」

・・・・

 今日の執務官はおかしい。そう思わざるえない言動を繰り返している。どう反応していいものか、
困ったものだから当たり障りの無いものを選んでおく。

「…そうですか」

「兄弟は大切にするんだな。失ってからじゃ、何もかも遅い」

 それを言われるとクーパーは少しだけ黙る。あまり考えたくない話だ。

「…解っています」

2人の会話はそこで途絶えたが、ふとクーパーが顔を上げる。何かが来たのに気づくかの様に。

「どうした?」

「…いえ」

 手でニット帽を抑えつつ、指をパチンと弾くとアルトの形態を変えるサイズが大きくなった。
クロノも何事かと見ていると、アルトに跨る。止める間はない。そしてニット帽を取り手から消し去る。

「…突撃前には支障無く戻ります」

「あ、っおい!!」

 やはり止める間もなくアルトはビルの上から別のビルに飛び、直ぐその姿を消してしまう。それを見送りながら、どいつもこいつも勝手な行動を取るとクロノは苛立ちを殺しながら仕方なしとばかりに待機を続ける。
丁度その頃、近くで待機していた武装隊の中に混じりユーノの姿があった。今回の突入の面子には入っていないが、どこか所在なさげにポツンとしている。そんな中。1匹の獣が降り立った。
武装隊の面子がざわめきそうになるのを背に乗るクーパーが御する。

「…階上より突入予定のクーパーです、騒ぎ立てるつもりはありません」

そのまま、獣の足はユーノに向き目の前でアルトは止まった。左目が冷徹に見下す。

「…乗って下さい。話があります」

 獣に乗っているクーパーの表情は硬い。ユーノはユーノで、クーパーを空ろな眼で見ていた。
乗ろうとはしない。というよりも動く気配すら見せない。業を煮やすクーパーは強引な手段に出る。

「…時間がありませんので失礼します」

「?!」

 アルトはユーノの腕を咥えると再び闇に躍った。武装隊の面子がポカンとする中で直ぐに闇に溶けてしまう。当然、ユーノは腕を咥えられた状態でぶらぶらと宙に泳ぐ。

「離せよ!」

 不安定な姿勢の中で文句を言っても何か返事が返ってくるでもなし、黒いのはビルを立続けに蹴りながら跳んでいく。
悪酔いしそう揺れの中で、最後に、一際大きな跳躍をこなしたかと思えば軽やかに着地する。フェイト達が拠点とするビルから、
随分離れたどこかの適当なビルの屋上のようだ。アルトはうわ変なもの食べちゃった、みたいに咥えていた腕を離す。ユーノはどすんと尻餅をつく。
獣に乗った弟と尻餅をついた兄は向き合う。

「…距離1200、南南西の方角からなのはさんがこっちに向かっています」

「なのはが……?どうして、」

「…まだ、魔法に関わりたいんじゃないんですか?」

 風が凪ぐ。クーパーはアルトに跨ったままユーノを鼻で笑った。相変わらず嫌味ったらしい態度だった。
静寂が走る。何も言わないユーノにクーパーは首を傾げてみせる。

「…助けないんですか」

「なんのことだよ」

 尻餅をついていたユーノも立ち上がるとアルトに跨ったままのクーパーと対峙する。
眼帯に隠された右目と、相変わらずの左目だけが見下ろしている。

「なんとか言ったら、どうなんだ?」

「…………」

 沈黙に苛立った。

「人を貶すのが大好きな奴だな……そんなことより、僕に構ってる暇はないはずだよ。突入までそう時間も無いんだ」

 言われるがままに確認すると現在時刻は既に8:40を回っていた。もうそれほど余裕はない。
執務官はさぞイライラしていることだろう。

「……そうですね。兄さんに構っていられる時間も、もうそれ程長くはありません」

「解ってるなら早く行きなよ、クロノにどやされても知らないぞ」

 アルトは爪を床に当ててカチカチ鳴らしてから身を翻し横向きになる。それでもクーパーの瞳はユーノを捉えていた。

「……過ちを」

一度、言い淀む。言葉を区切り、クーパーの発言は止まってしまった。
先を促す。

「言いなよ」

「……間違える事を恐れるあまり怯えてるようにしか見えません。なのはさんは昔の兄さん、ましてや僕でもない。
あの人は人一倍頑張り屋で、人一倍脆い一面も持つ、ただの女の子なんです。それぐらい解ってあげたらどうなんですか」

「そんなの、言われなくても解ってる」

「…なら、助けに行ってあげればいいじゃないですか。なのはさんが待っているのは他でもない兄さんじゃないですか。
僕やクロノ執務官が行っても意味がない。魔法の世界に引きずり込んだ人がちゃんと最後まで面倒みてあげないと……」

「だから、お前に言われなくても解ってる。でも、今なのはを引っ張り出してどうするんだ。
また撃墜されるのを見てろっていうのか? これ以上傷つく姿を見てろいうのか」

それでも尚迷う兄に、アルトの脇を足で押さえつける。叱責とばかりにアルトの一吼えが響く。

「…何もせずに後悔するのなら何かして後悔したほうが、ずっといいでしょうに。人にどうこういわれようとも、貫くのもまた一つですよ」

 ユーノが返事を返す前にクーパー、もといアルトの体は宙に踊っていた。夜の闇を跳んでいく。直ぐにその姿は見えなくなってしまった。
その夜の闇を見つめながら、ユーノは夜の闇を腕を一振り一閃する。自分の迷いと、何かを払拭するかのように。そして、足元にはライトグリーンの魔方陣を発動させる。

「探査……、転移」

 なのはの位置を探る転移の魔法を発動しユーノの姿は、ビルの屋上から消え失せる。跡形もなくだ。

そして









「兄弟揃っていい根性しているな……君達は」

「…面目ありません」


突撃5分前戻ったら、ねちねちねちねちクロノに怒られた上、ゲンコツを落とされた。
くそ痛かった。







 苦しくて、目の前がチカチカする。なのはは、街中で1人、乱れた呼吸を整えながら、苦しい胸を抑えていた。夜。街中に張られた結界の反応にいても立ってもいられず、
家を飛び出してしまった。後で家の人間に、しこたま怒られるかもしれない。それでもいいとさえ思った。また、自分の知らぬ所で何か起きていると思う、
と動かずにはいられなかったのだから。でも、問題は直ぐに生ずる。家を出て少しの所で、なのはは腕輪の
カドゥケスを起動して、走りながら。

「お願い、飛んで!」

とお願いした所。

『申し訳ありませんが、飛行魔法はインプットされていません』

「ええ?!」

 早々に拒まれた。デバイスを持っていようが中身に魔法のプログラムがなければ宝の持ち腐れに過ぎない。しかたないとばかりになのははひたすらに走った。街中の結界反応に向けて全力疾走である。
とは言っても子供の足で速度はたかが知れている。飛べれば直ぐだというのに、なのはは倍の時間をかけて、移動する羽目になる。魔法一つでここまで変わるとは、そう、思わざるえない。
走ること20分少々、街中に到達したなのははあるモノに気づいた。周囲の人はなんら問題無く動いているものの結界という違和感に遮られているのだ。歯噛みする。先に行こうと思っても進む事はできやしない。

 結界に触れる事こそできないが目の前の見えざる壁の存在を把握し、その壁沿いに、なのはは動く。

「どこかに、抜け穴とか無いかな……」

 魔法があれば、バスターやシューターでぶちぬくこともできる。でも、今は攻撃の手段を一つ持ち合わせていないから、どうすることもできない。デバイスもあるが魔法についても知っていても実行できなければ、意味がない。
中で何が起こっているのか、それを案じつつ焦りとどうしようもない不安だけが胸の中で広がっていく。

「カドゥケス、何かいい案ないかな?」

『ありません』

 役立たずのデバイスに文句を言っても仕方が無い。結界沿いにひたすら歩きながらどこかに抜け穴があることを、願うばかりだ。これほど歯痒い思いをするとは思いもしなかった。とりあえずクーパーに念話を送ってみても反応はない。手詰まり、
とばかりにユーノにも念話を送ってみる。今まで再三送っても返事の無かった相手だ。一縷の望みを賭ける。

"お願い、ユーノ君。応えて"

 眼をぐっとつむって、返事を待ったが10秒、20秒と返答がないと、最後の希望は打ち捨てられていく。

「…駄目、かな」

 吐息を落とす。結界を打ち破る術が無い以上。後は、結界が開放されるまで後方待機という手もあるがそれはなのはの判断がよしとしなかった。何もせずにいるより、何かを求めて動いていたほうが、吉である。と考えたらしい。
よし、とやる気を出したところで、目の前にライトグリーンの魔方陣が走ると、反射で体が止まる。0.1秒の連続の中で、咄嗟に身構えようとすると、姿を見せたのは華奢で女の子っぽくて、
今しがた応答を求めた人物。ユーノ・スクライアだった。

「ユーノ君?」

「ごめん、なのは。来るのが遅すぎた」

ユーノはポケットを探るとあるものを取り出す。それを見てなのはは眼を輝かせた。

「レイジングハート!」

「受け取って、やっぱりこれは、なのはが持ってるべきものだ」

「ありがとう……っ」

 紅玉を受け取り、久々に相棒が手許に戻ってきてほっとする。これで魔法を使える、という安堵感。そしてこれでようやく戦える。ギラギラとした野望がなのはの中で漲る、これでフェイトにも手が届く。

「レイジングハート、お願い!」













返事がなかった。

「ああ、ごめん。僕が機能落としてるんだった」

 ユーノはそう言いながら手を翳し、小さな魔方陣を浮かべる。しかし、紅玉は明滅すら起さない。なのはは頭に?マークを浮かべつつ、ユーノも何故レイジングハートが起動しないのか訝しんでいると
カドゥケスの突っ込みが、場を凍らせる。

『これはただのビー玉です。ミス高町』

「……」

 動じない心作りをしてきたが、これにはなのはも固まるざるをえない。1秒、2秒と固まってから、ふふ、ふふふふふ、うっふっふっふっふと不気味な笑いをする。

「ユーノ君……」

 凄い眼差しがユーノを貫いたがユーノにも解らない。レイジングハートは確かに自分で機能を落としたのだ。てんぱった所をなのはに腕をガッ!!と掴まれる。
罵倒の一つ言われるかと思ったがなのはから飛び出た言葉はユーノが思ったものとは、まるで違う言葉だった。

「結界の中。入れる? それよりも、中はどうなってるの? お願い、教えてユーノ君。私、
デバイスもないと魔法も使えないし、何一つできないけど、お願いっ。まだ魔法を手放したくないの!」

 自分勝手な願いだとなのは自分を卑下する。ユーノは以前自分にいった。興味心や好奇心でこの世界を覗かないほうが、いいと。結果からみればなのはが望んでいるのはそういった類のものだ。
結局、解っていなかったのかもしれない。それでも、願う。フェイトを止めたいと。そして願いが叶うのならば友達になりたいとも心の奥底から願う。
そんな必死の嘆願をユーノが拒む筈もない。

「うん。今度はなのはの事守るよ」

 腕を掴むなのはの体を引き寄せて抱き留める。もしかしたら、それはユーノにとっての宣誓のようなものだったのかもしれない。
ユーノの片手が陣を描くと足元に魔方陣が走った。

「今管理局がフェイトの拠点を発見して、クロノとクーパーそれに武装隊が突入して制圧してる真っ最中だと思う。結界は、その為に敷かれてるんだ」

「うん。……あれ?でもユーノ君は?」

「僕は居残り」

 苦笑してしまう。何故残されたのかは、恥ずかしいから言わないでおく。転移の構築が完了すると、2人の姿が消え失せる。直ぐに結界内に、ジャンプする。ユーノはなのはを抱き、なのははユーノにしがみつく形で、結界内の上空に姿を見せた。
もう面倒臭いからユーノは管理局との通信を切って状態を傍観することにした。どうせ、文句を言われるだけだ。して、肝心のビルはと言えば高い階数で、一部損壊している箇所が見えた。時々魔法の炸裂と思わしき音と閃光がビルの中から轟く。

「フェイトちゃんとアルフさんの制圧?」

「そう。階上からクロノとクーパーアルトが、階下からは武装隊が同時突入してる。
その上この結界だから多分、2人は逃げるに逃げられないよ」

 度々窓から魔力弾が吹っ飛んできたり閃光が窺える。凄く突入したいなのはだがぐっと堪える。魔法が使えない以上、邪魔なだけだと自制する。

「ユーノ君、何処かビルの上に、降りよう。このままここにいても」

しょうがないよ、という言葉は続かなかった。ユーノとフェイトよりも右斜め上から同意の声がかかる。

「そうだね、いい案だ。でも悪いけど邪魔になるからどいてもらうよ」

「?!」「?!」

 2人の顔は、右斜め上を向く。そして、いつの間に姿を見せたのか、黒い髪のフェイトがそこにはいた。ユーノと同じく、
飛行魔法で浮いている。なのはにしてみれば誰? という具合だがユーノにしてみれば敵でしかない。
しかし、反応はなのはが早い。

「ごめんね」

 ノームが2人に掌を向けて魔力を収束させる。腕から魔力変換資質がバチンと眩くも危うい音を立て、ユーノよりも先に行動に出たのはなのはだ。なのはは抱かれている状態ではあるが、足は膝あたりを踏み
ユーノの胸倉を掴むと思いっきり体を仰け反る。不意なな反動に耐え切れず、ユーノの体は大きなカーブを描きながら落下を開始。2人が元いた場所にはノームの魔力弾が通過していく。それを見て、黒髪を揺らし思わず微笑んでしまった。

「やるね」

「わあぁああ!!!」

弧を描きながらも落下を続け風が凄い勢いで2人を撫でて行く。それでもなのはに動揺は見られない。

「ユーノ君落ち着いて!」

 落下を続けるユーノに強い一喝を浴びせると意識は少しだけ、平常に戻った。

「ちょっとなのは?!」

「あの人はフェイトちゃんじゃないよね? 敵でいいんだよね?」

ユーノにしがみつきながら口早に確認する。

「う、うん」

 だとすれば、迷う必要はない。ならば、よし。

「お願い、私の言うとおりに飛んで!」

「ええ??!!」

「いいから飛んで!」

 解った、という返事は適わなかった。落下を続け地表スレスレの所まで来てユーノの襟元を引っ張り上げ無理やり浮力を作る、
ユーノは無理やり飛行を展開させられ、まるで潰れた魚のような声をあげたが衝突を避ける。そのまま低空で加速させる。なのはは上を見上げた。

「他に敵はいない・・・、カドゥケス。私に使える魔法ある?」

『バリアジャケット以外、使用できるものはありません。』

「あれ? カドゥケス?」

 ここで初めて、なのはがブーストデバイスを装着している事にユーノも気づく。何故クーパーのものをと思っているという余裕は無い。とりあえずバリアジャケットだけ展開しておく。
これさえあれば死ぬ確率はぐっと下がるのだから。そんな2人に追い討ちがかかる。なのはは再び上を見ると、あるものの襲来に気づいた。

「ユーノ君、誘導弾!」

「うげ!?」

 金色の光球が三つ追いかけてきている。なのははそれと同時に黒髪の位置を目視で探す。敵は、まだ上だ。本体が追ってくる気配は無い。

「(遊ばれてるの!)」

 ならば好機、とばかりにしがみつく位置を前からユーノの背へと移動する。これでなのははユーノに背負われる形となった。

「ちょっとなのは、何やってるの?!」

「操りやすい位置に動いただけだよ。それよりも、来るよ!」

 先程の誘導弾、だ。しぶとく追いかけてくる。加速して! と耳元で叫ぶば当然ユーノも加速する。次々と通過していくビル群の中を飛びかっていく。上を見上げてれば黒いフェイトが確認できる。
なのはは暴れまわる心臓と焦りを抑えながら、次の手を探る。無為に慌てれば以前となんら変わらない。状況を手に取り戦況を把握する。果たしてそれができるのか? 一度だけ唾を飲む。まだ、
クーパーと一緒にやってきたことが本当に実を結んでいるのかは自信がない。それでも、ワンルームの中でのクーパーの言葉を思い出す。


「…易有対極、是生兩儀、兩儀生四象、四象生八卦」

「ふぇ?」

休憩の時の事。突如のクーパーの言葉は言っている意味がさっぱり解らず、?マークを頭いっぱいに浮かべる。その前に日本語なのかも怪しかった。受け売りですとクーパーは続ける。

「…対極図、というものをご存知ですか」

「対極図? えっと、あの白と黒が合わさったやつ?」

 たまにTシャツなんかの柄にもなったりしてる。

「…そう、それです。あれは大変興味深い。一つの丸の中に、光と影が生じる様を映し出しているんです。
陰陽という全く異なったものを一つに表しながら、全く別物の2つを示しているんです」

「う、うん」

 理数系は兎も角として、文系が得意でないなのはは御託や理屈だったり物事の起原並べられるのは苦手だ。
心の中で、もう少し解りやすく言って欲しいと考えていると苦笑いされる。顔に出てますねという突っ込みが入った。

「…人は常に恐怖と勇気を持ち合わせます。戦いが怖くない人間なんて、弱いだけなんですよ」

「?」

「僕も、兄さんも、フェイトも、クロノも、皆勇気の反面、恐怖を持って戦ってるんです。人は、如何にその恐怖と付き合いながら、戦うかが大事になります。
恐怖から眼を逸らさないで如何にして向き合うか考えて見て下さい」

「うーん……」

 その時はいまいちピンとこなかったが、敵と改めて遭遇するとなんとなくレベルで解らないでもない。戦闘の最中に怖いという感情、これから逃げずに尚敵と立ち向かうと言う事。敵と恐怖、
本当の敵は目の前で戦う敵にあらず、だ。ユーノは誘導弾を上手く回避しながら飛ぶが、それにしがみつくなのははある決意を選択し怖さと向き合う。逃げはしない。ユーノの耳元でぽつりと呟いた。

「上昇して、ユーノ君」

その言葉にユーノは機敏に反応する。

「駄目だよなのは、今上にあがったら狙い撃ちにされる」

 それもそうだ。なのはを背負いながら戦う以上、危険な選択はとれない。そんなユーノの後ろから、耳元でそっと囁く。

「お願い、ユーノ君」

「……ッ!!!」

 朱に染まりあがる何か。甘い(別に甘くはないが)声に聞こえてしまったユーノは、体がカチンと反応するのだ。抵抗しようにも抗えない声とばかりに内心で僅かな葛藤を続けながらも、
なのはの決定に身を委ねる事にした。低空から一気に高度を上げて海鳴の空へと昇る。当然、それを逃すノームでもない。誘導弾も、後を追いかけてきた。なのはが状況を確認する。

「下から3! それから右斜め下から黒いフェイトちゃん!」

 ユーノが声に反応し魔法を紡ぐ。結界魔導師がここで負ければなんとする、か。両手で二枚ラウンドシールドをそれぞれノームと誘導弾用に展開する。直ぐに、
ノームの拳と誘導弾2つがシールドに叩きつけられる。右手の盾は拳を左手の盾には誘導弾を。魔力干渉が迸り、目の前で眩さが煌きを残す。衝突しながら、右も、左も、破られる気配は無い。
ユーノの次の手を考えた時。誘導弾の1が、円弧を描き、後ろへと回り込んだ。目がそれを追う。

「しま……ッ!」

「ごめん、君達にかまけてられる時間は、あまり無いんだ」

 回り込んだ誘導弾。それが決定打になるよりも早くなのはが動いていた。先程と同様、ユーノの重心を無理やり外しその場から離脱する。ただし、垂直落下というユーノにとっては
不名誉な形では、あるが。その様を見つめながら、ノームは固めたままの拳に雷の苛立ちを生み出す。
手が、構えられた。

「これで終りにしよう」

ノームの呟きは2人には聞こえない。

「ユーノ君回避!」

 舌打ちこそないが言われるまでも無い。ユーノは垂直落下から飛行魔法に力を孕ませて、宙で反転し身を翻す。直ぐにその場から離脱する。それを目測で追うノームは、腕を伸ばし目標に狙いをつける。

「跳ねよ雷刎ねよ雷鳴、アルカス・クルタス・エイギアス、サンダー」

「まずい、避けられない!」

「スマッシャー!」

 天を分け隔てるが如き雷鳴が轟く。砲撃はユーノ一直線に走り回避も許さぬ速度で迫る。当然、逃げていたユーノがやる事は決まっている。盾を生み出し砲撃と激突させる。
体に衝撃が噛み付くが歯を食いしばったまま盾を維持する。ぶつかった以上は逃れようとも引こうとは思わない。射撃砲撃誘導弾近接だろうと何でもござれ。
弱いと言われようが結界魔導師は腐っても結界魔導師だ。ピーキーな必要も無く、過剰なクレバーさも必要無い。堅く、ただ堅く、仲間を守る盾であれば良い。

 砲撃が、盾を破る気配は無かった。ノームは呟く。

「堅いね」

 一向に決壊する気配を見せぬ盾に一時砲撃の手を止める。ユーノもそれに合わせ結界を解除する。なのはを背負ったまま、宙でノームと対峙する。相手の力量は未だ把握できないものの、
なのはやフェイトクラスと見ても間違いはない。ユーノは油断無く構えるも、ノームが動く気配も無くただじぃと見つめてくる。探られているのか、それとも何か裏があるのか。
ユーノの背中にしがみついたままなのはも注意深く伺う。周囲に魔法や別の魔導師の様子は見られない。

「戦闘が目的なら、ここも押し通るけど」

 突如誘導弾を無数に生み出し周囲に泳がせる。構えるユーノだが飄々とした言葉を紡ぐ。

「今は、勝ち負けはいらない」

 金色の誘導弾を生み出すと一挙にフェイト達のビルへ殺到する。外壁を砕き窓を破砕する。さらに、
ビルに向かい手を伸ばし構えながらノームはユーノを見る。黒いフェイトの瞳がじろりと覗いてくる。

「それだけだよ」

「……………………」

 再び、ノームの手からは砲撃が放たれるも、狙いは一件のビルで当たり前の如く直撃する。外壁をぶち壊し中にも損害を与えていた。砲撃の直撃だからそれも当たり前なのだろうか。
そうこう考えているうちに、ビルの中から、2つの人影が、飛行魔法で飛び出してくる。フェイトと、アルフだ。

「未発見のジュエルシードは、残り6個」

 ノームの呟きはユーノとなのはを見つめながら、落とされた。だが、そこに何か意味はあったのだろうか。
挑戦とも挑発ともとれるその言動とその姿を見つめる。直ぐに彼女も身を翻しながら砲撃魔法で結界を突き破り道を開くと、
3人で転送魔法を発動し消えてしまう。残滓も残さず、か。陽炎を追うようにユーノもなのはも、
ノームが去って行った場所を見つめ続けた。何を思うのか。互いに口を開く事も無い。ビルの方を見ると、黒煙があがっていた。

 当然だが、フェイトとアルフは取り逃がした。ユーノは誰にも気づかれない溜息を、一つ落とした時。頭の中に念話が走った。

"ユーノ・スクライア君。"

 思わずぎょっとしてしまう。心臓がドキリと跳ねて、バクバク動き出す。できれば、聞きたくない人の声でもあるが、
逃げる訳にはいかないだろう。念話を返す。

"はい。…なんでしょうか。リンディさん"

"今すぐなのはさんを自宅に送ってきなさい。その後艦長室まで来る事。いいわね?"

"はい"

 そこで、ぶつりと念話は途絶えた。溜息も挟まない。

「なのは、とりあえず今日は家まで送るよ」

「うん。解った」

 背中に背負うなのはの返事を受けながらとりあえずユーノはよしとする。

「必ず、連絡するから。待ってて」

「ん、置いてけぼりにしたら酷いよ」

 それは苦笑いで逃げておく。それでも、前よりかは断然いいのかもしれない。飛行魔法で自分の体をふわりと、何処か高揚した気持ちは間違いではないと思いたい。
後でリンディのところに行くのは怖い気もするが、今はそれも後回しだ。空を泳ぎながらとりあえずユーノは笑っておいた。怖いよユーノ君、と思われたのは知らぬ存ぜぬである。
走ればそこそこ大変な距離だが、飛べばさほど苦でもない。高町家に到着すると、なのはは部屋の窓から、中に戻る。

「それじゃ」

「またね、ユーノ君」

 身を翻して宙を躍った所で、また念話が入ってくる。今度は、怖い声ではなかった。
当たり前だが、動きは見られていたらしい。

"やほーユーノ君、転送してもいーい?"

"お願いします、エイミィさん"

少しホッとしたような。しなかったような。自分の本当の気持ちは掴めた。ならば、迷う必要はない。ユーノの体が衛星軌道上の、アースラ艦内に運ばれた。





 アースラ艦長室。いるのは、クーパーとリンディ、ユーノ。しかし、こういう場面でリンディが怖いのは以前からの話だが、
前にも増してに怖いのは気のせいだろうか。座すリンディと直立不動の2人。唾を飲む音が、聞こえたのかは定かでない。

「なのはさんの一件、どういうつもりかしら?」

穏やかなでない表情がユーノとクーパー、それぞれを貫く。胃が非常に痛くなりそうな状況でもある。

「なのはさんにはもう手を出さない。そう伝えたんじゃなかったかしら?」

それにも頑張って抵抗する。

「でも、なのはは」

「意見は認めていませんよ。ユーノ君」

蛇に睨まれた鼠だろうかユーノは途中で言葉を切らざる得ない。

「このままだと貴方達も艦を降りてもらうことになります、ユーノ君、クーパー君。独断行動は禁止。
そう、言い聞かせた筈よね?」

「はい」

「…はい」

「だというのに、貴方達は早々からそれを破るし、……ねぇ?」

 ねぇ? という言葉はこの上なく頭が痛い。ねちねちと攻められるのは存外、心が軋みをあげるのだ。やはり胃にもよろしくない話である。

「ユーノ君は通信切った上なのはさんを結界の内側に入れちゃうし、クーパー君は作戦行動前に勝手に動いちゃうし。
そんなに管理局って信頼性ないのかしら。どうなの2人とも」

 何も考えてませんでした。と言いたいのはやまやまだが、それを口にしたら目の前の鬼がどうなるか解ったものではない。
口に出さざること小利口なり、暴れる心臓を抑えて望む。ユーノは真っ直ぐにリンディを見据える。

「なのはは、まだ戦えると思います」

「それで? 私は以前になのはさんの危険性について指摘しているけど」

「訓練をすれば問題はないんじゃないですか?」

「民間人をこれ以上荒事に巻き込まない。その決定を貴方は覆すのかしら、ユーノ君」

「でも、なのはの意思はどうなるんですか?」

溜息一つ。

「艦長たる私の意志を無視して民間人の意志を優先させる。……そんな無知蒙昧かつ愚行と言っていい行動をとるのがスクライアのすることなの? 君はもう少し利口なタイプだと思っていたけど」

「僕がなのはに魔法を関わらせたのは、危険を回避する為です。そして力がある。それを半端なまま放置する方がどれだけ危険なことになるか」

「人の話、聞いてるのかしら」

 自分の想いはそのままにユーノも必死に抵抗する。それでも、話は平行線のままだ。ユーノもひかない、リンディが引くはずも無く話は暗澹としながら進んでいる。
どこまでも真っ直ぐに。ユーノはなのはを助けたいそして飛んでもらいたいと願うリンディはそれを却下という。
でもこうした力比べをすると、どうしても勝つのは権力がある方だ。如何にアルフが抗おうが、個人が権力に敵う訳も無く、またそれはおこがましいとも言う。

 所詮、個と膨大ともいえる群体との違いなのだ。ちらりとリンディがクーパーを見やる。

「クーパー君はどうなのかしら?」

「…申し訳在りませんでした」

 権力には頭を下げます、とばかりにペコりと頭を下げる。それを見て少しだけショックだった兄だったりもする。
下げられた頭を見ながらリンディも口の中で言葉を泳がせる。そもそもが民間協力者なのだ。
馬鹿がいたり多少の齟齬は生じるのは解っている。クーパーは作戦内での不備はなく問題無く動いてる。

 今回ばかりは大目に見てやろうとばかりに口を開こうとした時。頭を下げた状態のクーパーが口を開いた。

「…ただし、如何なる人間にも今一度の挑戦権。チャンス、というものがあって然るべきだと思います」

「なのはさんに?」

「…はい。このままにしておけばなんらかの形でなのはさんも姿を見せることでしょう。お恥ずかしい話ですが、
不逞の身内もおりますので、結界を敷こうとも何らかの形で関わってくると思います」

 ユーノの心情を表すならばお前何様だよ。という具合である。どなって文句の一つ言ってやりたい所だが艦長の手前意地を見せた。

「…切捨ても構いませんが最後のチャンスを以って今後を封じ込めれば宜しいと思います。その方が諦めがつくでしょうし、
幸いにもなのはさんのサポートを何も言わずとも行ってくれそうな輩もここにおりますので」

「そうね……」

そうねぇ、じゃないよ。

…そうねぇ、じゃない糞婆。

 兄弟は似たり寄ったりの考えを浮かばせる。どちらが兄でどちらが弟の考えかは推して知るべし。クーパーは続ける。

「…付け加えて申し上げるなら、アースラにはクロノ執務官という大きな柱があります。次戦でその柱をノームやフェイトにぶつける前になのはさんが、
今後アースラの戦力を担えるかそして確認の意味を兼ねて戦ってもらうのも、一つかと思われます。
今一度、なのはさんが撃墜された所で、アースラにはなんら問題は無いのでしょう?」

「………………」

 リンディが黙った。その頭蓋に収められる優秀な脳の中で一体何を考えているのか。二人には知る由もない。沈黙が続く。リンディの発言を待ったまま暫くの沈黙が流れる。
クーパーも、ユーノも少なからず緊張を孕ませた末の事。沈黙は破られる。

「解りました。次にフェイトが姿を見せた時は、まずなのはさんに頑張ってもらいましょう。よろしくお願いしますね。ユーノ君。なのはさんのアースラ乗船も認めます」

「はい!」

 なんとか首の皮一枚繋がったのか。ほっと安堵の息を漏らす。これでも尚駄目のNOサインだとしたらたまったものではない。

「ただし命令無視、独断行動などをとった場合。なのはさんは今後一切の魔法の関わりを禁止します。その上で、ユーノ君。貴方は作戦行動の阻害ということで、
申し訳在りませんが、アースラ内でおとなしくして貰います。それは了承しなさい」

「なのはが、負けた場合は?」

「その時考えるわ。それじゃこの話は以上をもって終わりにします。下がっていいわ。2人とも」

 一緒にペコリと頭を下げてから、踵を返し艦長室を後にする。ユーノは廊下に出ると、思わず深い溜息をついてからあることを思い出す。

「あ……」

何かを呟くも既にその場を去ろうとしていたクーパーは足を止めない。ユーノに後ろ姿を見せて歩き続ける。

「クーパー」

ユーノが呼びかけると、弟は足を止める。少しだけ、振り向いた。

「…何ですか」

「いや」

 ユーノは言いたい事を濁らせて、言葉を詰まらせる。当然、そんな兄を弟は待たない。待つ必要も無しとばかりに。
再び、歩き始めた。ユーノは後姿だけを眺める。ごちゃごちゃになる頭だがりあえず言葉を投げておく。

「助かったよ」

「…………僕は何もしてません」

どちらも互いの言葉が届いたのか解らないがよしとする。ユーノもその場を後にした。それよりも、明日はなのはに確認したい事があった。先を急ぐ。艦長室前の廊下は静けさを保っていた。







笑うのは誰か。
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